チーフデザイナーである私は、部下の上げてきた成果物に対して「もっと、ふつうに」という指示を出すことがよくあります。
そんな曖昧な指示を出したら部下は困惑するだろうなと思いながらも、それを一つ一つ言語化しようとするととても時間がかかってしまうので、その触りのみを説明して後は考えてもらうようにしています。
例えば、「ふつう」を別の言葉に置き換えてみるといいかもしれません。
「自然」であったり、「シンプル」や「ミニマル」、「フラット」や「ストレート」でもいいと思います。「力の抜けた」という表現もとても好きです(これも曖昧な表現ですが)。
つまりは、まるで手が加えられていないような、なるべくしてなったようなデザインを「ふつう」と呼んでいて、私はいつもそれを目指しています。“いつも”と言うと誤解を生むのですが、まずはその物事に対しての「ふつうの位置」を明確にすることで基準ができるため、まずはふつうを目指してデザインします。
そして「ふつうのど真ん中」の位置が把握できれば、「今回はこのままど真ん中直球勝負で行くぞ」とか「少しだけ外そう」といった表現ができるようになります。
▲ランの花を際立たせるため王道の表現をした牧野植物園ラン展ポスター(2020年)
▲熱帯の空気感を出すために混沌とした表現をしたラン展ポスター(2021年)
これらの表現を実現するためには、普段の生活やその中で触れるものごとに対して、
これはふつうかな?
ふつうならどういう表現かな?
あえてふつうから外すとすればどういう表現かな?
などと繰り返し自分に問うことが必要だと思います。ただ、常にシンプルやストレートなものがふつうとは限りません。スーパーマーケットの特売チラシであれば派手で勢いのあるものの方が普通ですし、高級ブランドのパンフレットであればその逆でしょう。その界隈で最もふつうのところを探し、「一番ふつう」だと認識できるかどうかが、デザイナーに求められる知識なのだと思います。
無印良品のプロダクトデザインなどで知られる深澤直人さんの著書『ふつう』に、こんな一節があります。
—無印良品の製品をデザインする時は、デザインをするという意気込みのようなものを捨てなければならない。肩の力をぬいて、それがいとも自然に成ったかのように、ある意味無責任と思えるくらいまで距離を置きながら客観的にそのものの形が出来上がっていく流れを見守らなければならない。
▲デザイナー深澤直人さんの著書『ふつう』
私自身はまったくその域には達していないのですが、自分のデザインに対して距離を置けるようになりたいと感じる一節でした。