読書ノートNo.3
書名 『計画と無計画のあいだ 「自由が丘のほがらかな出版社」の話』
著者名 三島 邦弘
出版社名 河出書房新社
東京自由が丘にある小さな出版社「ミシマ社」の代表が、起業から現在までの歴史や思いを書いた本。
中古の一軒家がミシマ社のオフィス兼本屋。
畳の部屋に古びたちゃぶ台があり、それを6〜8人(全社員)が囲んで全体会や出版会議もする。
一年に刊行する新刊はたったの6冊ほど。既存の出版社のイメージからはほど遠い。
だけれどなぜだかうまくいっている会社。
そんなおもしろい会社だから、雑誌などのメディアに取り上げられることも多く、前から気になっていた。
読み進めていくと、途中、僕にとってはすごくショックな情報があった。
それは出版業界の返本に関する問題だ。
出版業界の売上は96年をピークに微減を続けているけれど、一年間に刊行される新刊の数は、92年に3万8000点だったのが、
現在では約8万点に倍増していて、単純計算しても新刊の売れ行きは半分になったということ。
そして売れない本は出版社に返本され、倉庫に眠り、大半は二度と日の目を見ないまま、断裁・焼却の憂き目にあう。
2008年にはその返本率が実に4割にも達していて、売れ行きが伸びないのを補うかのように、出版社は新刊点数を増やす。
そんな悪循環が続いていて、この出版業界の構造を「資源の無駄」と一刀両断する人もいるという事だった。
莫大な量の木を伐採して作った紙で、玉石混淆に本を作り、年間に想像もつかないような量の本が処分されているのだから、
資源の無駄といわれてもしかたない。
僕は週に一度は書店に行くけれど、確かに行くたびに違う新刊が並んでいる。出版業界が右肩下がりなのも知っている。
でもそれはなんとなく知っているだけで、こうして数字を見せられると、少しでも出版に関わる人間としてはショックだった。
僕が本を買う理由は、そこに書かれている情報だけじゃなくて、プロダクトとしての「デザイン」だったり
「趣」「佇まい」だったりするから、今まで電子書籍に魅力を感じなかったけれど、電子書籍だってもちろんちゃんと読めるわけだし、
すごく合理的なものであることは間違いないように思う。
逆に、資源保護が叫ばれる時代に、半分は捨てられるであろう本を作り続けていくことは、
時代に逆行したナンセンスな事なのかもしれないと考えさせられもした。
それ以外の内容としては、要は代表の三島さんの熱意と人間力みたいなもののおかげで、
ちょっと個性的で出版社社員としての一芸に秀でた人間が不思議と集まり、三島さんが「感覚」に頼り「熱量」を込めた、
一見無計画な判断や行動が、結果的におもしろいものを生み出している。
「とにかく一冊一冊最大限の熱量を注いで、一冊入魂で本を作る」というような内容だった。
それほど面白くはなかったけれど、「無計画」の魅力みたいなものはあるんだろうなと思った。
ラフ通りにできあがったデザインはきっとつまらないし、全てプロット通りにできあがった小説も、
スケジュール通りに行動するだけの旅行もきっとつまらない。
考えていなかった「無計画」から生まれる部分に、人は心踊らせたり、夢を見たりするのかもしれないな、とは思った。