「多様性って言いながら一つの方向に俺らを導こうとするなよ」
そんな台詞がすごく刺ささります。
誰にも分かってもらえない切なさ。
分かり合うことを強要する身勝手さ。
この小説は、多様なフェティシズムが出てくるダイバーシティをテーマにした物語です。
読むと、自分が考える多様性がいかに画一的だったことかと反省させられます。
自分のことを理解ある側の人間だと少しでも思っていたことが恥ずかしくなり、
世の中には想像すらしてもらえない感情がたくさんあるのだと気づきます。
小説だけどこれはこの世界の話なんだと。
例えば、
「異性の体に興奮する人」は正常で、
「蛇口から噴出する水飛沫を見て興奮する人」は、その存在さえ認めてもらえない。
「そんなヤツいるわけない」となってしまうでしょう。
主人公たちは、そんな誰にも理解してもらえない感情やフェティシズムを抱きながらも
それが異常だと自認していた。だからこそ誰にも打ち明けることなく生きてきた。
その不安や悲しさや苦しみ。誰とも分かち合えない孤独感はどれほどのものだったでしょう。
でも、もしも同じ感情を抱く仲間に出会えたなら。
その「繋がり」がこの世界に自分をとどめておいてくれる。
明日死ななくてもいい世界になる。
明日も生きていたいと思える世界になる。
「あってはならない感情なんて、この世にはないんだから」
凪良ゆうさん著の『流浪の月』を思い出しました。
社会に理解されない関係性の二人。
この読中も「理解してもらわなくていいから、二人をほっておいてあげて」と何度も思いました。
誰かのことを安易に分かろうとすることさえ、
浅はかな考えなのかもしれませんね。
「多様性」という言葉だけが先走るような世界にはならないでほしいと思います。
どんな人にも今こそ読んでほしい良書でした。
映画化も気になりますね。
書名:正欲
著者:朝井リョウ
発行:新潮社
感想:島村