【日刊リーブルレターVol.17】
あなたは直感派ですか?それとも理論派ですか?
近年では経営において「直感」での意志決定がリーダーに求められるようになっています。そのことは、山口周さんが綴られた『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか〜経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社新書)に詳しく書かれています。この本は私のバイブルで、デザイナーとしての視点や経営幹部としての道を見失いそうになると、ときどき開いては心の位置をリセットしています。
感性を語る際に重要な「直感」と、そして人生の軸であったり企業哲学にもなりうる「美意識」についてとても分かりやすく、かつ面白く書かれたています。直感は、アートやデザインといった分野においては重要であろうことは明白ですが、言語化できるものではないため、経営判断に直感を用いようとするのは受け入れ難く感じます。
しかし、山口さんは著書の中で、 日本企業のリーダーはあらゆる判断基準を「サイエンス(数字や理論)」に頼りすぎているのだと語っています。逆にグローバル企業のリーダーは「アート(美意識)」という尺度を持って意思決定を行っています。この尺度を持たずに数字だけにこだわり判断を繰り返していると、企業をミスリードすることがあると訴えています。
ただし、数字や理論での判断を否定するような内容ではありません。数値や経験値といったものの尺度と同等に、直感も極めて重要な判断基準であることを、リーダーは認識するべきだということです。
本書には、様々なリーダーが登場します。その中で好きなエピソードを1つ紹介します。
ソニーの傑作商品であるウォークマンの開発は、創業経営者の井深氏と盛田氏の直感で発売が決定したものです。
あるとき井深氏は「海外出張の際、機内で音楽を聴くための小型・高音質のカセットプレイヤーが欲しい」と言いだし、このリクエストに応じて開発部門が製作した一品限りの特注品でした。これを盛田氏に見せたところ、大いに気に入り製品化にゴーサインを出したとのこと。しかし現場はこの判断に猛反発。当時市場調査から得られたニーズは、大型スピーカーのラジカセが主流で、「録音もできない、スピーカーも付いていないカセットプレイヤーが売れるわけない」と、まさに「理性的」に判断したのです。でも創業者2人の意見は「でもこれ、いいよね?」「お、いいですね!」と意見が一致していたため、製品化へと進んだのです。そして結果はみなさんのご存じの通りの大成功を遂げたのです。
前回投稿で先述しましたが、直感やセンスは身に着けられるスキルです。そのためには日頃から自分の直感に目を向ける訓練や、アートや文学に触れる機会を設ける必要があるのだと感じます。そしてこの著書のゴールは「良い経営」ではなく、「美意識を大切に生きていく」という、すべての人の人生の軸になり得るものです。ぜひ一読してみてください。