自費出版:グラフィック系
自費出版:文章系

私自身のこだわりを残しつつ、ご提案を取り入れていただき、味わい深い作品となりました。

山のくろと呼ばれて 〜思い出ぽろぽろ あんなこと こんなこと~
長谷川光位(東京都)

 

リーブル様の印刷の品質や技術の高さは伺っておりました。

私の写真は、コンパクトカメラやデジカメで、日常の何気ないヒトコマを撮り貯めた記録のようなものばかりです。ひとつひとつの写真に決め手はないのですが、整理して繋いでいくことで、ストーリーが出来上がったのです。

写真集というジャンルで、製作をお願いしてみたものの、美の追求という点では、少し気後れしておりました。プロのカメラマンの方が、的を絞り、対象を浮かび上がらせて、一目で感動を与えるような写真ではありませんが、犬の〝くろ〟とともに写し出される背景や、係わり合う縁も大切に感じる作品です。

また言葉の力を大切に、こだわった作品でもありました。かなり、文章のボリュームがあり、読み物として分類される傾向もあります。

完成間近にいただいた本文の変更についてのご提案は、全体の構成や流れを、もう少し早い段階で、細かなニュアンスを含めて、じっくり検討してみたかった部分ですが、私の原稿を熟読され、〝くろ〟へ深く感情移入されたことで、最終のタイミングでのご提案になったのだと、受け留めております。

装丁を担当していただいた傍士様、ベージュの丈夫な表紙は、最後まで泥臭く粘る〝くろ〟が偲ばれます。その表紙に集められた表裏、合わせて10のつぶやきは、〝くろ〟の口から、ぽろぽろとこぼれてきそうな言葉でしたね。(笑)

表紙カバーについては、当初、私は違ったイメージを考えておりましたが、〝春めく農道〟(作品の中に掲載)をアレンジしていただき、活き活きとした〝くろ〟が印象的です。空気の澄んだ寒い季節などは、富士山がくっきりと浮かび上がる私のお気に入りの場所ですが、春霞のかかるこの頃は、富士山が隠れてしまうのです。特別な絶景ではないけれど、やさしい緑と野花のゆれる風景に溶け込む〝くろ〟に満足しております。切れ味に乏しい写真でしたが、むしろ、やわらかな〝くろ〟の表情が引き出されたように思えます。表紙カバーに春を選んだことで、迷った結果、裏表紙カバーには、秋の〝黄金色の農道〟(作品の中に掲載)を選びました。地味ですが、くろの旅立ちが秋であったこと、何度も一緒に歩いた道、近年変わりゆく町並みを見ていて、いずれは消えてしまいそうな原風景になる予感などが後押ししたものです。

私自身のこだわりを残しつつ、ご提案を取り入れていただき、味わい深い作品となりました。

素朴な写真が多かったので、全体的に、落ち着いた、飽きのこない仕上がりにしていただき、想い出が詰まった、ずっしりと重い1冊となりました。

 

本が完成し、4月に、〝くろ〟のルーツを辿るべく、山梨県を訪れてみました。(甲斐犬もどきの〝くろ〟はどうも山梨県にゆかりがあるようで……)今年こそは……今年こそは……と思いつつ、数年来、先送りになっていた桃の花咲く頃の甲州路。勝沼ぶどう郷の駅のホームに沿って桜並木が満開の時期は、甲府盆地にピンクの桃の花が一面に広がるのです。下りの電車でもう少し進み、のどかな無人駅の春日居町で下車。桃の花畑の脇を歩きながら、「着いたよ!」といって、鞄の中の『山のくろと呼ばれて』を取り出して、ページをめくり、くろ、ゴロ、太良、そして仲間たちに桃の花を眺めてもらいました。

 

完成した本を、縁のあった方、知り合い、ご近所の方へ差し上げましたところ、「涙がでてきたよ」そんな言葉にジーンとしました。中には、買っていただいた方もありました。〝くろ〟は地元の方々には、よく声をかけていただき、可愛がっていただいた犬でした。

私の手元のアルバムの中に留まっていた〝くろ〟が世の中へと羽ばたいて、時間の経過とともに、その後の本(くろ)の運命が気になりますね。

出版後、時々、書店へ足を運んでおります。無名の『山のくろと呼ばれて』ですから、どこの書店にも在るわけではありませんが、それを探すのもひとつの楽しみです。〝くろ〟はどんなところにいるのかな? 書店での扱われ方も様々です。

時々、休日に電車で1~2時間ほど離れた書店にも行ってみます。

もしも、ボロボロになって、くたびれている〝くろ〟を見つけたら、買って帰ろう(連れて帰ろう)という心境で訪ねます。

かわいい動物の仲間たちの写真集のコーナーに紛れていたり、華やかなグラフィックコーナーの中に置かれていたり、有名な写真家の方の作品の横に、ひっそりと佇んでいたり、思わず「〝くろ〟こんなところにいたのか!」とつぶやいて、表紙の顔を撫でてみたり、 誰にも気付かれそうもないような足下の棚にひそんでいるのを見つけて、少し中段の棚へ移動してみたり、奥まっている背表紙を1~2センチ前へ出してみたり……ささやかなプチ営業ですね。(笑)中には、お客さんが開いて見ることができないように、ビニールに覆われていることも。それはそれで、大事に扱われているんだなと安心してみたり。これからの〝くろ〟の運命を見守りたいですね。

 

最近は、書店が消えていく時代。さみしいものですね。

大型書店は図書館のような雰囲気の所が増えてきました。角には椅子を設けて、読書スペースも。またカフェや雑貨屋さんを併設したり、集客率を上げる工夫が、必ずしも売上げに結びつかないことも悩みでしょうか。

ネットの時代ですが、本屋さんに元気になってもらいたい。本屋さんが元気でいてほしい。そんなことを考える今日この頃です。電子書籍も注目されますが、やはり、紙の風合いや手ざわりを大切にしたいですね。

『山のくろと呼ばれて~想い出ぽろぽろ あんなこと こんなこと~』細く長く、皆さまに親しんでいただけることを願っております。

 

2017年 6月  長谷川 光位

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